たと(ピンカートンの『海陸紀行全集』一八一四年版、十六巻、四九九頁)。
 琉球人の伝説に、毒蛇ハブと蜈蚣《むかで》は敵でハブ到底蜈蚣にかなわない。因って次の呪言を唱えるとハブ必ず逃げ去る。その呪にいわく、ヨーアヤマダラマダラ(以下訳語)汝は(普通の)父母の子か、俺は蜈蚣の子ぞ、我行く先に這い居るならば、青笞で打ち懲らすぞ、出ろ出ろ(佐喜真興英氏の『南島説話』二八頁)。前に記した「この路に錦斑の虫あらば云々」という歌によく似おり、茅や野猪の代りにンカジ(ムカデ)があるだけ異《ちが》って居る。蛇はあっちでもマダラというらしい。
 それからアリストテレスの『動物史』、八巻二八章に、カリア等に産する蠍《さそり》はよく牝豕を殺す。牝豕は他の毒虫に螫《さ》さるるも平気だ。殊に黒い牝豕は蠍に殺されやすい。また蠍害を受けた豕は、水辺へ近づくほど速やかに死ぬとある。一昨年(大正十年)九月大連市の大賀一郎氏から、北満州産の蠍を四疋贈られ愛養中二疋は死んだが、二疋は現に生きおり、果して豕を螫し殺すか試《ため》さんと心懸くるも、狭い田舎の哀しさ豕が一疋もないから志を遂げ得ぬ。予がかかる危険な物を愛養し続くる訳
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