ので、やや似た例は支那説に雉と蛇が交わりて蜃《おおはまぐり》を生む。蛇に似て大きく、腰以下の鱗《うろこ》ことごとく逆生す。能く気を吐いて楼台を成す。高鳥、飛び疲れ、就《つ》いて息《やす》みに来るを吸い食う。いわゆる蜃楼《しんろう》だという。一説に正月に、蛇、雉と交わり生んだ卵が雷に逢うと、数丈深く土に入って蛇形となり、二、三百年経て能く飛び昇る。卵、土に入らずば、ただ雉となると(『淵鑑類函』四三八、『本草綱目』四三)、サー・トマス・ブラウン説に、古エジプトの俗信に、桃花鳥《とき》は蛇を常食とするため、時々卵に異状を起し、蛇状の子を生む。因って土人は力《つと》めてその卵を破り、また卵を伏せるを許さずと。ヒエロム尊者説に、これは古エジプト人が崇拝した桃花鳥でなく、やや悪性の黒桃花鳥だと。
さて、バシリスクが諸動物および人を睨めば、その毒に中って死せざる者なく、諸植物もことごとく凋《しぼ》み枯る。ただ雄鶏を畏《おそ》れその声を聞けば、たちまち死す。故にこの物棲むてふ地を旅する者、必ず雄鶏を携えた。鼬《いたち》と芸香《るうだ》もまたその害を受けず。鼬これと闘うて咬まれたら芸香を以てその毒を治
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