したので、その由来は、大神ゼウスがスパルタ王ツンダレオスの妻レーダに懸想し、天鵞に化けてこれを孕《はら》ませ二卵を産んだ。その一つから艶色無類でトロイ戦争の基因たるヘレネー女、今一つから、カストルとポルクスてふ双生児が生まれたからだとあるが、天鵞形の神に孕まされて生んだ卵は天鵞卵で鶏卵でなかろう。何に致せグベルナチス伯の言のごとく、世界は金の卵から動き始める理窟だから、金の卵の噺《はなし》から書き始めようとしても、幾久しく聞き馴れた月並の御伽噺《おとぎばなし》にありふれた事では面白からず、因って絶体絶命、金の卵の代りにキンダマ譚《ばなし》からやり始める。
 けだし金の卵とキンダマ、国音相近きを以てなるのみならず、梵語でもアンダなる一語は卵をも睾丸をも意味するからだ。支那でも明の劉若愚の『四朝宮史酌中志』一九に内臣が好んで不腆《ふてん》の物を食うを序して、〈また羊白腰とはすなわち外腎卵なり、白牡馬の卵に至りてもっとも珍奇と為す、竜卵という〉。『笑林広記』に孕んだ子の男女いずれと卜者に問うに、〈卜し訖《おわ》りて手を拱いて曰く、恭喜すこれ個の卵を夾《はさ》むもの、その人甚だ喜び、いわく男子
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