近づき来る。たちまち顧みると狐がとても登り得ぬ高い壁が野中に立つ、因って翅《つばさ》を鼓してそれに飛び上り留まる。狐その下に来り上らんとしても上り得ず、種々の好辞もて挨拶すれど、鶏一向応ぜず。ただ眼を円くして遠方を眺める。その時狐が言い出たは、わが兄弟よ、獣の王たる獅子と鳥の王たる鷲《わし》が、青草茂れる広野に会合し、獅子より兎に至る諸獣と、鷲より鶉《うずら》に至る諸禽とことごとく随従して命を聴かざるなし、二王ここにおいてあまねく林野|藪沢《そうたく》に宣伝せしめ、諸禽獣をして相融和して争闘するなからしめ、いささかも他を傷害するものあればこれを片裂すべしと命じ、皆一所に飲食歓楽せしむ。また特に余をして原野に奔走して洩《も》れなく諸禽獣に告げ早く来って二王に謁見しその手を吸わしむ。されば汝も速やかに壁上より下るべしと。鶏は更に聞かざるふりしてただ遠方を望むばかり故、狐大いにせき込んで何とか返事をなぜしないと責むると、老鶏始めて口を開き、狐に向い、汝の言うところは分って居るがどうも変な事になって来たという。どう変な事と問うとアレあそこに一陣の風雲とともに鷹群が舞い来ると答える。狐大いに惧れ
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