慧ある王一切世間の事を知る。この王|昼餐《ちゅうさん》後、必ず人に秘して一物を食うに、その何たるを識《し》る者なし。その僕これを奇《あや》しみ私《ひそか》にその被いを開くと、皿上に白蛇あり、一口|嘗《な》むるとたちまち雀の語を解し得たので、王の一切智の出所を了《さと》ったという。北欧セービュルクの物語に、一僕銀白蛇の肉一片を味わうや否や、よく庭上の鶏や鵝《が》や鶩《あひる》や鴿《はと》や雀が、その城間もなく落つべき由話すを聴き取ったとあり。プリニウス十巻七十章には、ある鳥どもの血を混ぜて生きた蛇を食べた人能く鳥語を暁《さと》ると載す。ハクストハウセンの『トランスカウカシア』にいわく、ある若き牧牛人|蛇山《オツエザール》の辺に狩りし、友に後《おく》れて単《ひと》り行く、途上美しき処女が路を失うて痛《いたく》哭《なげ》くに遭《あ》い、自分の馬に同乗させてその示す方へ送り往く内、象牙の英語で相惚《アイボレー》と来た。女言う、妾実は家も骨内《みうち》もない孤児だが、ふと君を一日|見《み》進《まい》らせてより去りがたく覚えた熱情の極、最前のような啌《うそ》を吐《つ》いたも、お前と夫婦に成田山《な
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