、妙に速く出入するがあたかも吸い落すよう見ゆるのじゃ。レオナードの『下《ラワー》ナイジァー|およびその諸民族《エンド・イツ・トライブス》』に、アジュアニなる蛇、玉を体内に持ち、吐き出して森中に置き、その光で鼠蛙等を引き寄せ食い、さてその玉を呑み納む。その玉円く滑らかにして昼青く夜光る。この玉を食中に置かば諸毒を避く。ただし蛇の毒には利かず。この玉を取らば光を失えども諸動物を引き寄する力は依然たる故、猟師これを重んじ高価に売買すとあって、著者の評に、これは蛇が眼を以て魅する力あるを、大層に言い立てたのであろうとある。
蛇と財宝
竜の条で書いた通り、欧亜諸国で伏蔵すなわち財宝を匿《かく》した処にしばしば蛇が棲むより、竜や蛇が財宝を蓄え護るという伝説が多い。また吝嗇家《しわんぼう》死して蛇となるともいう。『十誦律』に、大雨で伏蔵|露《あらわ》れたのを仏が見て、毒蛇だというと、阿難も悪毒蛇だといって行き過ぎた。貧人聞き付けて往き見れば財宝多し。それを持ち帰って大いに富む。その人と不好《ふなか》な者が、この者宝蔵を得ながら王に告げぬは不埒《ふらち》と訴えければ、王召してことごとく
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