思い切らず竜界の一竜女、新たに寡なるが他の諸竜女その夫の好愛するを見、ついに太子を説いて偕《とも》に棲むところあるなど、竜も人間も閨情に二つなきを見るに足る。この辺で俗伝に安珍清姫宅に宿り、飯を食えば絶《はなは》だ美《うま》し。窃《ひそ》かに覗《のぞ》くと清姫飯を盛る前必ず椀《わん》を舐《な》むる、その影|行燈《あんどん》に映るが蛇の相なり。怪しみ惧《おそ》れて逃げ出したと。

     蛇の効用

 この辺でまた伝えしは、前掲トチワの国では蛇を常食としダシを作ると。されば現時持て囃《はや》さるる「味の素」は蛇を煮出して作るというも嘘でないらしいと言う人あり。琉球で海蛇を食うなどを訛伝《かでん》したものか。効用といえば未開半開の世には蛇が裁判役を勤めた。昔琉球で盗人を検出するに、巫女蛇を連れ来り、衆人を集め示せば、盗人に食い付きていささかも違《たが》わず、故に盗賊なかりしと(『定西法師伝』)。熊楠案ずるに『隋書』に日本人の獄訟《うったえ》を、〈あるいは小石を沸湯中に置き、競うところの者にこれを探らしむ、いわく理曲なればすなわち手|爛《ただ》る、あるいは蛇を甕中に置きこれを取らしむ、いわ
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