の夜這《よば》いを叱《しか》り卻《かえ》したに次いで豪い(『別訳雑阿含経』巻二十、南方先生|已下《いか》は拙《やつがれ》の手製)。『弥沙塞五分律《みしゃそくごぶんりつ》』八に、〈仏、舎衛城に在り、云々。時に一の年少の婦人の夫を喪う有りて、これなる念《おも》いを作《な》す。我今まさに何許《いず》くかに更に良き対を求めるべし、云々。まさに一の客舎を作り、在家出家の人を意に任せて宿止せしめ、中において択び取らんと。すなわち便《ただ》ちにこれを作り、道路に宣令して、宿るを須《ま》つ。時に阿那律、暮にかの村に至り、宿所を借問す。人有りて語りて言う、某甲の家に有りと。すなわち往きて宿を求む。阿那律、先に容貌|好《よ》きも、既に得道の後は顔色常に倍せり。寡婦、これを見て、これなる念いを作《な》す。我今すなわち已《すで》に好き胥《むこ》を得たりと。すなわち、指語すらく中に宿るべしと。阿那律すなわち前《すす》みて室に入り結跏趺坐《けっかふざ》す。坐して未だ久しからずしてまた賈客あり、来たりて宿を求む。寡婦答えて言う、我常に客を宿すといえども、今已に比丘に与え、また我に由らずと。賈客すなわち主人の語を以て、阿那律に従きて宿を求む。阿那律寡婦に語りて言う、もし我に由らば、ことごとく宿を聴《ゆる》すべしと。賈客すなわち前に進《い》る。寡婦またこれなる念いを作す。まさに更に比丘を迎えて内に入らしむべし、もし爾《しか》せざれば、後來期なからんと。すなわち内に更に好き牀を敷き燈を燃し、阿那律に語りて言う、進みて内に入るべしと。阿那律すなわち入りて結跏趺坐し、繋念して前に在り。寡婦衆人の眠れる後に語りて言う、大徳我の相|邀《むか》える所以の意を知れるや不《いな》やと。答えて言う、姉妹よ汝が意は正に福徳に在るべしと。寡婦言う、本《も》とこれを以てにあらずと、すなわち具《つぶ》さに情を以て告ぐ。阿那律言う、姉妹よ我等はまさにこの悪業を作《な》すべからず、世尊の制法もまた聴《ゆる》さざる所なりと。寡婦言う、我はこれ族姓にして年は盛りの時に在り、礼儀|備《つぶ》さに挙がりて財宝多饒なり。大徳の為に給事せんと欲す。まさに願うべき所、垂《なに》とぞして納められよと。阿那律これに答えること初めの如し。寡婦またこれなる念いを作す。男子の惑う所は惟《た》だ色に在り。我まさに形を露《あらわ》にしてその前に立つべしと。
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