したとある。竜気を稟《う》けて生まれてだにこんなだ。いわんや竜自身の大毒遥かに人蟒や蟒卵に駕するをやで、例せば、難陀《なんだ》※[#「烏+おおざと」、第3水準1−92−75]波難陀《うばなんだ》二竜王、各八万四千の眷属あり、禍業の招くところ、悩嫉心を以て、毎日三時その毒気を吐くに、二百五十|踰膳那《ようじゃな》内の鳥獣皆死し、諸僧静かに度を修する者、皮肉変色|憔悴《やせ》萎《しお》れ黄ばんだので、仏|目蓮《もくれん》をして二竜を調伏せしめた(『根本説一切有部毘奈耶』四四)。
 かく竜てふ物は、東西南北世界中の大部分に古来その話があるから、東洋すなわち和漢インド地方だけの事識れりとて、竜の譚全体を窺うたといわれぬ、英国のウォルター・アリソン・フィリップ氏の竜の説に、すこぶる広く観て要を約しあるから、多少拙註を加えて左に抄訳せり。ついでに述ぶ、前節に相師が妙光女を見て、この女必ず五百人と交わらんといった話を述べたが、一八九四年版ブートン訳『亜喇伯夜譚補遺《サップレメンタリー・ナイツ》』一にも、アラビアで一《ある》女生まれた時、占婦|卜《ぼく》してこの女成人して、必ず婬を五百人に売らんと言い
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