よりは欧亜諸邦の毒竜の話に極めて似居る。例せばペルシアの古史賦『シャー・ナメー』に、勇士サムが殺した竜は頭髪《かみ》を地に※[#「てへん+曳」、第4水準2−13−5]《ひ》いて山のごとく起り、両の眼|宛然《さながら》血の湖のごとく、一たび※[#「口+「皐」の「白」にかえて「自」、第4水準2−4−33]《ほ》ゆれば大地震動し、口より毒を吐く事洪水に似、飛鳥|竭《つ》き、奔獣尽き、流水より※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]《がく》を吸い、空中より鷲を落し、世間恐怖もて満たされ、一国のために人口の半ばを喪《うしの》うたと吹き立て、衆経撰『雑譬喩《ぞうひゆ》経』に、昔|賈客《こかく》海上で大竜神に逢う、竜神汝は某国に行くかと問うに、往くと答えると、五升|瓶《がめ》の大きさの卵一つを与え、かの国に行かば、これを大木の下に埋めよ、しからざれば殺すぞという。恐ろしくてその通り埋めてより国中疫病多し、王占いてかの蟒卵《ぼうらん》を掘り出し焼き棄てると疫が息《や》んだ。後日かの賈客、再び竜に逢って仔細を語ると、奴輩《やつら》を殺し尽くさぬは残念というから、その故を問う。我|
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