あろう。予はこの推定を大略首肯するに躊躇せぬ。しかしかかる物を読んで、竜をアジアの一部にのみ流《おこな》われた想像動物と信ずる人あらば、誤解も甚だしく、実は竜に関する信念は、インドや支那とその近傍諸国に限らず、広く他邦他大州にも存したもので、たとえば、ニューギニアのタミ人元服を行う時、その青年必ず一度竜に呑まるるを要し(一九一三年版、フレザー『不死の信念《ゼ・ビリーフ・イン・インモータリチー》』一巻三〇一頁)、西北米のワバナキインジアンに、竜角人頭に著《つ》きて根を下ろし、伐《き》れども離れぬ話広く行われ(『万国亜米利加学者会報《トランサクチョン・ジュ・コングレス・アンターナチョナル・デー・アメリカニスト》』一九〇六年、クェベック版、九二頁)、西人がメキシコを発見せぬ内、土人が作った貴石のモザイク品に、背深緑、腹真紅、怒眼、鋭牙、すこぶる竜に似たものが大英博物館にあったので、予これは歌川派画工が描いた竜を擬《まね》たのだろと言うと、サー・チャーレス・リードが、聢《しっか》り手に執って見よというから、暫《しばら》く審査すると、全く東半球に産せぬ響尾蛇《ラットル・スネーク》の画の外相だけ東
前へ
次へ
全155ページ中50ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
南方 熊楠 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング