くべしと祝して去った、女房一向気に留めず、昨日拡げ置いた布を巻き掛けると、巻いても巻いても巻き尽きず、手が触《さわ》るごとに殖えて往く、ところへかの僧を門前払いにした婦やって来て、仔細を聞き、追い尋ねてやっとかの僧を見附け、わが夫の性がころりと改まったから、今夜|情願《どうぞ》拙宅へと勧めると、勤行《ごんぎょう》が済み次第参ろうとあって、やがてついて一泊し、明朝出立に臨み前夜通りの挨拶の後、僧また汝が朝始めた業は昏《くれ》まで続くべしと言って去った。待ってましたと、大忙《おおいそ》ぎで下女に布を持ち来らしめ、度《さし》に掛かろうとすると、不思議や小便たちまち催して、忍ぶべうもあらず、これは堪《たま》らぬ布が沾《ぬれ》ると、庭へ飛び下りて身を屈《かが》むる、この時遅くかの時早く、行《ゆく》尿《しし》の流れは臭くして、しかも尋常の水にあらず、淀《よど》みに浮ぶ泡沫《うたかた》は、かつ消えかつ結びて、暫時《しばし》も停《とど》まる事なし、かの「五月雨《さみだれ》に年中の雨降り尽くし」と吟《よ》んだ通り、大声※[#「口+曹」、第3水準1−15−16]々|驟雨《ゆうだち》の井を倒《さかさ》にする
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