果して相師の言のごとく、妙光女死すといえども、余骸なお五百人に通じ、五百金銭を獲たと。妙光死して天竺の北なる毘怛吐泉《びたとせん》の竜となり、五百牡竜来って共に常にこれに通じた。世尊諸|比丘《びく》に向いその因縁を説きたまわく、昔|迦葉仏《かしょうぶつ》入滅せるを諸人火葬し、舎利《しゃり》を収め塔を立てた時、居士女《こじのじょ》極めて渇仰して明鏡を塔の相輪中に繋《つな》ぎ、願わくはこの功徳もて後身世々わがある所の室処《へや》光明照耀日光のごとく、身に随《つ》れて出ん事をと念じた。その女の後身が妙光女で、願の趣聞き届けられて、居所室内明照日光のごとくだった。かく赫耀《かがやき》ながら幾度も転生《うまれかわ》る中、梵授王の世に、婆羅尼斯城の婬女に生まれ賢善と名づけ、顔容端正人の見るを楽《よろこ》ぶ。ところで予《かね》て王の舅《しゅうと》と交通した。ある時五百の牧牛人《うしかい》芳園で宴会し、何とよほど面白いが、少女の共に交歓すべきを欠くは残念だ、一人呼んで来るが好《い》い、誰が宜《よか》ろうと言うと、皆賢善女賛成と一決し、呼びに行くと、かの婬女金銭千文くれりゃ行こう、くれずば往かぬというたので、まず五百金銭を与えて歓を得、戯れ済んでまた五百金銭を渡せば如何《いかん》といい、婬女承諾して五百銭を受け、汝ら先往きて待ちおれ、我|※[#「靜」の「爭」に代えて「見」、第3水準1−93−75]飾《みじまい》して後より行こうという。衆去りて後婬女われかく多勢を相手に戯れては命が続かぬ、何とか脱《のが》れようをと案じて、かつて相《あい》識《し》った王舅に憑《たの》みて救済を乞わんと決心し、婢をして告げしめしは、かくかくの次第で、妾|迂闊《うかつ》の難題を承諾したが、何が何でも五百人は一身で引き受けがたい、さりとて破談にせば倍にして金を返さにゃならず、何とか銭も返さず身をも損ぜぬよう計らいくだされたいと頼むと、平常|悪《にく》からぬ女のこと故、王の力を仮りて女を出さず五百銭をも戻さずに、五百人を巻いてしまわせた。爾時《そのとき》辟支仏《へきしぶつ》あって城下に来りしを、かの五百|牧牛人《うしかい》供養発願して、その善根を以てたとい彼女身死するとも残金五百銭を与えて、約のごとく彼と交通せんと願懸《がんかけ》した。その業力《ごうりき》で以来五百生の内、常に五百金銭を与えて、彼女と非法を行う
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