と呼ぶ長大の動物尾も頭も知れず連日游ぎ過ぐるに際限を見ず、因って見込みの付かぬをホーズもない事というと聞く、かかる物実際存否の論は措《お》いてとにかく西洋に大海蛇の譚あるようにインドや支那で洋海に大竜棲むとし海底に竜宮ありと信ずるに及んだのだ、また俗に竜宮と呼ぶ蜃気楼も蜃の所為とした、蜃は蛇のようで大きく腰以下の鱗ことごとく逆に生えるとも、※[#「虫+璃のつくり」、第3水準1−91−62]竜《あまりょう》に似て耳角あり背鬣紅色とも、蛟に似て足なしともありて一定せず、蜃気楼は海にも陸にも現ずる故|最寄《もより》最寄で見た変な動物をその興行主が伝えたので、蜃が気を吐いて楼台等を空中に顕わすを見て飛び疲れた鳥が息《やす》みに来るを吸い落して食うというたのだ(『類函』四三八)。また月令季秋雀大水に入って蛤《はまぐり》となり孟冬《もうとう》雉大水に入って蜃となる、この蜃は蛤の大きなものだ、欧州中古|石※[#「虫+劫」、第4水準2−87−51]《かめのて》が鳧《かも》になると信じわが邦で千鳥が鳥貝や玉※[#「王+兆」、第4水準2−80−73]《たいらぎ》に化すと言うごとく蛤類の肉が鳥形にやや似居るから生じた迷説だが、邦俗専ら蜃をこの第二義に解し蛤が夢を見るような画を蜃気楼すなわち竜宮と見るが普通だ。
[#「第6図」のキャプション付きの図(fig1916_06.png)入る]
インド、アラビア、東南欧、ペルシア等に竜蛇が伏蔵を守る話すこぶる多い、伏蔵とは英語でヒッズン・トレジュァー、地下に匿《かく》しある財宝で、わが邦の発掘物としては曲玉や銅剣位が関の山だが、あっちのは金銀宝玉金剛石その他|最《いと》高価の珍品が夥しく埋まれあるから、これを掘り中《あ》てた者が驟《にわ》かに富んで発狂するさえ少なからず、伏蔵探索専門の人もこれを見中てる方術秘伝も多い。『起世因本経』二に転輪聖王《てんりんじょうおう》世に出《い》づれば主蔵臣宝出でてこれに仕う、この者天眼を得地中を洞《とお》し見て有王無王主一切の伏蔵を識《し》るとあるから、よほど古くより梵土で伏蔵を掘って国庫を満たす事が行われたので、『大乗大悲分陀利経』には〈諸大竜王伏蔵を開示す、伏蔵現ずる故、世に珍宝|饒《おお》し〉という。前文に述べた通り伏蔵ある地窖《あなぐら》や廃墟や沼沢には蛇や蜥蜴類が多く住み、甚だしきは※[#「魚+王の中の
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