tしと。これは妄《みだり》に虚説を信ずる者を誡《いまし》めた譬喩だが、この話の体はいわゆる逓累話《キユミユラチブ・ストリー》というもので、グリンム、クラウストンその他の俚話を蒐《あつ》めた著書に多く見える、「クラウストン」より一例を引くと、マダガスカルの譚にイボチチなるもの樹に昇ると風が樹を吹き折り、イボチチ堕ちて脚を傷つけ、樹は人の脚を傷つけるから真に強いというと、樹いわく風がわれを折るから風の方が強いと、風いわく山はわれを遮るから強い、山いわくわれを穿《うが》つ鼠がわれより強い、鼠より猫、猫より縄、縄より鉄、鉄より火、火より水、水より舟、舟より岩、岩より人間、人間より術士、術士より毒起請、毒起請より上帝と次第に強きを譲る、イボチチここにおいて上帝より強い者なしと悟ると言う。またインドパンジャブ州の俚談に雄雀年老いたるが若き雌雀を娶り、在来の雌雀老いて痛き目を見るを悲しんで烏の※下[#「※」は「あなかんむり+果」、63−4]《かか》におり雨降るに気付かず、烏の※中[#「※」は「あなかんむり+果」、63−4]に色々に染めた布片あり、雨に溶けて老雀に滴り燦爛《さんらん》たる五采孔雀のごとしと来た、悦んで巣へ帰ると新妻羨んで何処《いずこ》でかく美装したかと問う、老妻染物屋の壺に浸って来たと対《こた》う、新妻これを信じ染物屋へ飛び往き沸き返る壺に入って死ぬほど湯傷《やけど》する、雄雀尋ね往って新妻を救い銜《くわ》えて巣へ還るさ老妻見て哄笑し、夫雀怒って婆様黙れと言うと新妻夫の嘴《くちばし》を外れ川に落ちて死んだ。夫雀哀しんで自ら羽を抜き丸裸になってピパル樹に栖《とまtり哭《な》く、ピパル樹訳を聞いて貰い泣きし葉をことごとく落す、水牛来て訳を聞いて角|両《ふた》つ堕《おと》し川へ水飲みに往くと、川水牛角なきを異《あや》しみ訳を聞いて貰い泣きしてその水|鹹《から》くなる、杜鵑《ほととぎす》来り訳を聞き悲しみの余り眼を盲《つぶ》し商店に止まって哭き、店主貰い泣きして失心す、ところへ王の婢来り鬱金《うこん》を求めると胡椒、蒜《にんにく》を求めると葱《ねぎ》、豆を求めると麦をくれるので訳を尋ね、哀しみ狂して王宮へ帰り詈《ののし》り行《ある》く、后怪しんで訳を聞き息切れるまで踊り廻る、王子これを哀しみ鼓を打ち王その訳を聞いて琴を弾いたという。日本にもこのような逓累譚《キユミユラチブ・
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