いさえすれば、まずまず「役人」にしかられずにすむのは、役人もまたわれわれと同じ人間だからです。
 このことはあらためてことごとしくいうまでもないきわめて当然な事柄である、と私は考えます。しかるに実際において、われわれがときどき耳目にする役人の行動はややともすれば私のこの信念を裏切ろうとします。そうしてそのたびごとに、私は「役人の頭」を疑わざるをえなくなるのです。なんとなく自分らもあの役人のもとで安心しているわけにはいかぬ、役人のほうでどうにかなってもらうか、ないしはああいう「頭」の役人がいなくなるような仕組みをつくらなければ安心していられないような気がするのです。
 私のような比較的「役人」に近い学問を専門とし、「役人養成所」だと世間から悪口をいわれている帝国大学の法学部に職を奉じ、役人にたくさんの知己をもっている者ですら、とかくそう思われてならないのである。してみれば、世間普通の人々の目には現在の「役人の頭」がもっとよほど変に映っているのではあるまいか。そうして彼らのうちの多数者たる利口者は、「役人」はああいうもの、「国家」はこういうものと大きくあきらめて、長いものには巻かれるほかな
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