一小事として軽視することができましょう。相手は「彼」一個人ではないのです。「国家」そのものです。この当該事件については「彼」の目、「彼」の頭がすなわち「国家」の目であり頭です。「役人の頭」を問題にしないで何としましょう。

       四

「役人の頭」だからといってわれわれ人民の頭とたいして違うわけはありません。だいたい同じような境遇に育ち、同じような教育を受け、同じようなものを食って生きている以上、「役人の頭」だけが特別なわけはない。彼らもわれわれと同じように、美しきを見ては美しと思い、悲しきを聞いては悲しと思うに違いありません。
 現在のいわゆる「法治国」においては役人はだいたい「法律」でしばられている。したがって、あまりわがままのきかぬようにはできあがっている。しかし、それでもまだかなりひろい範囲において自由裁量の権限を与えられています。すなわち役人は常に必ずしも「法律」という既定の標準のみによって事を裁断する必要なく、いつでもある程度においては自己の意見を加えて、自由の裁断をなしうるようにできています。しかも、その役人の自由裁量によって、われわれ人民は貴重な財産、自由、名誉
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