して下役人をしばったり督励しようとしているといううわさを耳にします。しかし私をしていわしむれば、それは決して下役の罪ではない。下役といえども飯を食わねばならぬ。その下役をして道徳的に自信のない行動をむりやりにやらせて、事久しきに及べば、彼らが道徳的に堕落するは当然です。したがって彼らをして堕落せしめたのは実に上役の罪であると私は思います。下役が道徳的に同感であろうがなかろうが、むりに事を命じてやらせる。その当然の結果として上役の目を盗むことができさえすれば何をやってもいいという考えを生ぜしめる。それはちょうど法律のむりな強行がややともすれば人民の徳性を害し、法律に従っていさえすれば何をやっても差支えないというような考えを生ぜしめやすいのと同じです。
この意味において現在の役人は、一には法律によってしばられ、二には上役の命令によってしばられた、きわめて困難な気の毒な地位にあるのです。しかもその「役人の頭」のみが今の国家をして長く活力あらしめる唯一の保障であることを考えると、役人の責務のきわめて重いことを感ぜずにはいられません。ここにおいて私は、一方には立法府および上役に向かってその法律
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