となしに指揮的態度をつづけてきたのです。ところが今、ようやく追いつきかけたと思うころに欧米はもはや新しい別な方向に向かって進もうとしている。否、すでに進みはじめました。ここにおいて役人と伝統主義者とはもはや彼を追うことはできないということに気がついた。けれども、しからばみずからに独自な別個の目標ありやというに、むろんそれはない。
彼らは従来、あまりに修養を怠りすぎたのです。「自分ははたしてどっちへ行ったらいいのだろう?」彼らはこう疑いはじめたのです。独自力のない彼らはそのとき考えました。欧米もはや追うべからずとせば、わが国みずからの古きに返るよりほか仕方がない。こう考えた彼らは、たちまち復古主義者となって、五〇年来深いお世話になった、そうしてみずから神のごとくにあがめていた、欧米の文化をたちまち弊履のごとくなげうって口汚くののしりはじめました。
そうして外来思想を非難し、魂の抜けた「えせ武士道」を鼓吹し、はなはだしきに至っては物質文化まで排斥し、精鋭な新武器をすてて再び刀をかつぎだすようなことを唱えはじめたのです。彼らの「民心統一」といい、「民力涵養」といい、「淳風美俗」というもの
前へ
次へ
全44ページ中32ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
末弘 厳太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング