かしながら兵家はよく「兵をして突進せしむるものは指揮者の信念と決心とである」といいます。明治が終って大正に入ったころ、われわれは形式だけはとにかく欧米の文化に追いつくことができた。そうしてわれわれは多少安心をしました。ところが夢中で突進してきた者にとっては、その安心は実に恐るべき安心でした。その結果、指揮者の決心もにぶり、国民もまた多少疲労をおぼえるに至ったのです。ことに役人が今までもっぱら目標として国民を導いてきた西欧の文化は、今や行きづまりを示して新たに向かうべき天地を求めています。今まで深く考えずに、ただ西欧文化を追うて走った独自力にとぼしい役人は、たちまち行きづまりました。
「さてわれわれはこれから何を目標として進もうか?」そのとき国民は役人に向かっていいました。「さてわれわれはどこへ行けばいいのですか? あなたはわれわれをどこへつれてゆくつもりですか?」と。しかし役人は十分この問いに答えることができませんでした。その答えをきいた国民が疑いはじめたのは当然です。不安を感じた彼らは、あたかも成年に達したか達せぬかの子供が突然その父母を失ったと同じように、これからは自分の進むべき道
前へ
次へ
全44ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
末弘 厳太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング