と「人間の世界」との間に大きな距離のあることは当然でした。それでも当時の人間は仕方のないものとあきらめていたのです。ところが近世になると、もはや人間はそれに満足することができなくなって、「役人の世界」と「人民の世界」との接近を要求しはじめました。しかし、それがために発明された制度がすなわち「なにびとといえどもすべていかなる役人にもなりうる」という今日の制度です。この制度の眼目は、「人間の世界」から人をつれてきてかりにこれをして「役人」の地位につかしめ、これによって「役人」したがってこれによって代表せられる「国家」の考え方をしてだいたい普通の人間のそれと同一ならしめんとするにあります。これによって従来は「役人」という全く別の世界の人間によってつかさどられていた仕事がともかくも「人間の世界」から出た役人によって取り扱われるようになり、その結果、人間は大いに安心することができるようになったのです。
 元来、法治国はあらかじめ作っておいた法律すなわち尺度によって万事をきりもりしようという制度です。そうして近世の人間は公平と自由との保障を得んがために憲法によってその制度の保障されることを要求した
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