じて法秩序を成長せしめてゆく働きをするのである。
 五 近代社会が特に法学的の訓練を受けた人間を大量的に必要とするのは、近代社会のかくのごとき特徴によるのである。しからば、その所謂法学的訓練とは何か。その意味が一般に十分理解されていないから、法学教育の目的もハッキリせず、法学部卒業生のいかなる能力が――例えば会社などでも――特に役に立つのかが、一般に正しく理解されないのである。
 単に学問が職業を得る手段として役立つというだけの意味であれば、すべての学問が「パンの学問」であって、法学だけが特に「パンの学問」だと言われる訳はない。現代の世の中そのものが法学的の素養がある者を沢山必要とするようにできていればこそ、法学を学ぶによって職業を得ることができるのである。従って法学教育それ自身も、結局そういう目的に役立つのだという意識の下に行われなければならず、新たに法学に志す人々も、初めからその理を心得ている必要があるのである。
 大学で習ったことそれ自身がそのまま役に立つのではなくして、むしろそれを忘れてしまった頃に初めて一人前の役人や会社員になれるという言葉も、法学教育の真の目的を理解してみれ
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