かる法的保障あるによってのみ、個人の行動の自由とそれを基礎とした民主的社会秩序とが成り立ち得る。
 (4)[#「(4)」は縦中横] しかし、同時に注意すべきことは、以上のような法的秩序はあらかじめ不動的に定立された法規範の自動的作用によってのみ成り立つのではなくして、特に法学的の訓練を受けた専門家がその運用に当ることが必要なことである。いかに精密な法規範体系を用意しても、それの自動的作用のみでは法秩序の円滑な運用を期することはできない。法には一面、機械のように正確な規整作用を行う非情的な面があり、それこそまさに法の特徴であるけれども、同時に個々の場合の具体的事情に応じて具体的に妥当な処理が行われなければ、全体として円滑に動かない面を持っている。だから、裁判所はもとよりその他の官庁や企業団体等にも、必ずかかる具体的処理を担当する専門家が必要であって、これあるによってのみ法の機械は円滑に動くのである。彼らは既定の法規範体系の単なる法字引でもなければ、見張人でもない。法学的訓練によって特に習得した法学的のものの考え方を活用して法秩序の円滑な動きを保障すると同時に、ひいては、社会の進展変化に応じて法秩序を成長せしめてゆく働きをするのである。
 五 近代社会が特に法学的の訓練を受けた人間を大量的に必要とするのは、近代社会のかくのごとき特徴によるのである。しからば、その所謂法学的訓練とは何か。その意味が一般に十分理解されていないから、法学教育の目的もハッキリせず、法学部卒業生のいかなる能力が――例えば会社などでも――特に役に立つのかが、一般に正しく理解されないのである。
 単に学問が職業を得る手段として役立つというだけの意味であれば、すべての学問が「パンの学問」であって、法学だけが特に「パンの学問」だと言われる訳はない。現代の世の中そのものが法学的の素養がある者を沢山必要とするようにできていればこそ、法学を学ぶによって職業を得ることができるのである。従って法学教育それ自身も、結局そういう目的に役立つのだという意識の下に行われなければならず、新たに法学に志す人々も、初めからその理を心得ている必要があるのである。
 大学で習ったことそれ自身がそのまま役に立つのではなくして、むしろそれを忘れてしまった頃に初めて一人前の役人や会社員になれるという言葉も、法学教育の真の目的を理解してみれ
前へ 次へ
全18ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
末弘 厳太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング