の「法」にあてはまらない新事実が生まれたとする。その際とらるべき最も合理的な手段は、その新事実のために一つの例外を設けることであらねばならぬ。それはきわめて明らかな理屈である。しかし人間は多くの場合その合理的な途をとろうとしない。なんとかしてその新事実を古い「法」の中に押し込もうと努力する。それがため事実をまげること――すなわち「嘘」をつくこと――すらあえて辞さないのである。
ですから法律発達の歴史を見ると、「嘘」は実に法律進化の仲介者たる役目を勤めているものであることがわかります。イギリス歴史学派の創始者 Henry James Sumner Maine はその名著『古代法』の中において、またドイツ社会学派の鼻祖 Jhering は不朽の大著『ローマ法の精神』の中において、この事実を指摘しています。そうして幾多の実例を古代法律の変遷現象中に求めています。しかしこの現象は決してひとり人智未開な古代にのみ限った事柄ではありません。文明が進歩してきわめて合理的に思惟し行動しうるようになったとうぬぼれている近世文明人の世の中にも、その事例は無数に存在するのです。
例えば「過失なければ責任
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