bとして、そのXの中に既知数たる分子を探求することに全力を尽くすべきです。しかも遺憾ながら、人類が今までに知りえた知識によると、X中既知数的分子はまだきわめて少ない。結局においては、なお多大の未知数的分子の残ることを許容せねばならないのです。ですから、そのXをみだりにAやBに置き換えるがごときはきわめて謙遜性を欠いた無謀の企てです。しかもさらばといって、XをXのまま置いたのでは学問になりがたい。なんとかしてそれを既知数化せねばならぬ。それがためにはまずできるかぎりXの中に既知数的分子たるabcdなどを求めねばなりません。しかし、それでもなお跡にはかなり大きな未知数が残るものと覚悟せねばなりません。そうしてその未知数をかりにxとすれば、従来の法学がXを軽々しくAやBに置き換えた代りに、これを([#ここから横組み]a+b+c+d+x[#ここで横組み終わり])なる項にすることができる。むろんこの場合といえどもxの値の決定はこれを裁判官なり陪審官なりに一任することになるのです。したがって、裁判官なり陪審官なりが、いかなる思想を有するかは結局における答えの形成に対してきわめて重要な作用を与えるものなることもちろんではあるが、ともかくも、軽々しくXをAなりBなりに置き換えるのに比すれば、はるかによく各場合に対する具体的妥当性を発揮しうる。またXをそのままXとしてその値の決定を全部裁判官や陪審官に一任するに比すれば、はるかによく「公平」を保障しうる。かくして([#ここから横組み]a+b+c+d+x[#ここで横組み終わり])の項中個々のabcなどがあるいは a'[#「a'」は縦中横] b'[#「b'」は縦中横] c'[#「c'」は縦中横] などとなり、またあるいは a''[#「a''」は縦中横] b''[#「b''」は縦中横] c''[#「c''」は縦中横] などとなるに従って、これと相対的関係を保ちつつ、その「答え」が変動する。その「変動の法則」を求めるところに今後法学の進むべき目標があるのだと私は考えます。
われわれは、科学によって得た獲物を極度に利用すべきです。しかし、同時にまた獲物を過信すべきではありません。Xの中には永久にxが残るものなることを覚悟せねばなりません。いわんや軽々しくXをAやBに置き換え、これによって正確な答えを発見しえたりと考えるがごときは自己錯覚のきわめて大なるものだと
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