顔を上げて見た。彼は別の人間の姿を見ても別に驚いた様子は見せなかった。ただ、その姿を見ると彼の片方の手のぶるぶるしている指が脣にふらふらとあてられ(彼の脣も爪も同じ蒼ざめた鉛色をしていた)、それからやがてその手はばたりと仕事のところへ落ち、彼はもう一度靴の上へ身を屈めた。この見上げるのとこれだけの動作をするのとはほんのしばらくしかかからなかった。
「そら、あなたのところへお客さんですよ。」とムシュー・ドファルジュが言った。
「何と仰しゃいましたか?」
「お客さんが来ていらっしゃるよ。」
靴造りは前のように顔を上げて見たが、しかし仕事から手を離さなかった。
「さあ!」とドファルジュが言った。「ここに、出来のよい靴を見ればすぐおわかりになる方《かた》が来てお出でになるのだ。お前の拵えているその靴をこの方《かた》にお目にかけなさい。旦那《ムシュー》、それを取ってみて下さい。」
ロリー氏はそれを手に取った。
「この方《かた》に、それがどんな種類の靴か、また製造者の名前は何というのか、申し上げなさい。」
いつもよりももっと永い間をおいてから、靴造りはこう答えた。――
「あんたのお尋ねになり
前へ
次へ
全341ページ中99ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ディケンズ チャールズ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング