ァルジュはロリー氏の耳のもっと近くで囁いて、ひどく顔を蹙《しか》めた。
「どうしてです?」
「どうしてですって! もし扉《ドア》が開《あ》けっ放しになっていようものなら、あの人はあんなに永い間押しこめられて暮して来られたので、怖《こわ》がって――暴《あば》れて――われとわが身をずたずたに引き裂いて――死んでしまうか――どんな悪いことになるかわからないからでさ。」
「そんなことがあり得るだろうか?」とロリー氏は大声で言った。
「そんなことがあり得るだろうかってんですか!」とドファルジュは苦々《にがにが》しく言い返した。「そうですよ。われわれが美しい世の中に住んでいる時に、そんなことは実際[#「実際」に傍点]あり得るのです。また、その他《ほか》のそういうようなことがたくさんあり得るんです。あり得るだけじゃない。現にあるのです、――いいですか、あるんですよ! ――あの空の下で、毎日毎日ね。悪魔万歳だ。さあ、行きましょうか。」
この対話はごく低い囁き声で行われたので、その一語も若い淑女の耳には達しなかった。けれども、この時分には彼女は強烈な感動のためにぶるぶる震え、彼女の顔には深い不安と、と
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