れ》を指し示した。ところが、それが的《まと》が外《はず》れて、すっかり失敗した。これもそういう手合にはよくあることである。
「どうしたんだ? お前は気違い病院行きの代物か?」と酒店の主人は、道路を横切って行って、一掴みの泥をすくい上げ、それを例の洒落《しゃれ》の落書の上になすりつけて消しながら、言った。「どうしてお前は大道なんかで書くんだ? こんな文句を――さあ、おれに言ってみろ――こんな文句を書き込む場所が他《ほか》にないのか?」
こう言い聞かせながら、彼は汚れていない方の手を(偶然にかもしれぬし、そうではないかもしれぬが)その剽軽者の胸のところに落した。剽軽者はその手を自分の手でぽんと敲いて、ぴょいと身軽く跳び上り、珍妙な踊っているような恰好で下りて来ながら、酒で染った自分の靴の片方を、足からひょいと振り脱いで手に受け止め、それを差し出して見せた。そういう次第で、その男は、飽くことのない悪戯《いたずら》好きであることは言うまでもないが、極端な悪戯《いたずら》好きの剽軽者らしく見えた。
「靴を穿きな、靴を穿きな。」ともう一人の方《ほう》が言った。「酒は酒と言って、それで止《や》めと
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