める時が、来ることになっていたのである★。
 さて、一時の微光のためにサン・タントワヌの聖なる御顔から★払い除けられていた暗雲が、またサン・タントワヌにかかってしまったので、そこの暗さはひどくなった。――寒気と、汚穢と、疾病と、無智と、窮乏とが、その聖者の御前に侍している貴族であった。――いずれも皆非常な権勢のある貴人であったが、とりわけそうなのはその最後の者であった。老人を碾《ひ》いて若者にしたというお伽話の碾臼《ひきうす》とは確かに違った碾臼で恐しくも碾きに碾かれて来た人間の標本が、あらゆる隅々に震えていた。あらゆる家々の戸口を出入していた。あらゆる窓から覗いていた。風にあおられているあらゆる形ばかりの衣服を著ながらうろうろしていた。彼等を捏《こ》ね潰した碾臼は、若者を碾いて老人にする碾臼であった。子供たちまでが年寄のような顔と沈んだ声とをしていた。そして、その子供たちの顔にも、大人《おとな》の顔にも、年齢のあらゆる皺の中に鋤き込まれてからまた現れて来ているのは、飢餓という目標《めじるし》であった。それは至る処に蔓っていた。飢餓は竿や綱にぶら下っているみすぼらしい衣服の中に入って高
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