せてやろうとしたりする者もあった。中には、男も女も、欠けた陶器の小さな湯呑で水溜りを掬ったり、女たちの頭から取った手拭までも浸して、それを幼児の口の中へ絞り込んでやったりする者もあった。また、葡萄酒が流れてゆくのを堰き止めようと、小さな泥の堤防を築く者もいた。上の方の高い窓から見物している者たちに教えられて、あちこちと走り※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]って、新しい方向に流れ出してゆく葡萄酒の小さな流れを遮り止める者もいた。渣滓《おり》の滲み込んでいるじくじくした樽の破片にかじりついて、酒で朽ちたじめじめした木片をさもうまそうに舐めたり、噛みさえしたりする者もいた。葡萄酒の流れ去る下水は一つもなかった。それで、それがすっかり吸い上げられたばかりではなく、それと一緒にずいぶんたくさんの泥までが吸い上げられたので、この街には市街掃除夫がいたのではなかったかと思われたくらいであった。もっとも、これは、誰でもこの街のことをよく知っている人が、そういう市街掃除夫などという者が奇蹟的にもここに現れるということを信ずることが出来たとしてのことであるが。
 笑い声と興がっている声――男たちや
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