、少し離れたところで、眺めているより他《ほか》に仕方がなかった。一方、その力の強い女は、もし宿屋の召使たちがじろじろと見ながらここにぐずぐずしていようものなら、どうするのかは言わなかったが何かを「思い知らしてやる」という不思議な嚇《おど》し文句で、彼等を追っ払ってしまってから、一つ一つ正規の順序を逐うて病人を囘復させ、彼女を宥《なだ》め賺《すか》してうなだれている頭を自分の肩にのせさせた。
「もうよくなられるでしょうね。」とロリー氏が言った。
「よくおなりになったって、茶色服のお前さんなんかにゃ余計なお世話ですよ。ねえ、わたしの可愛いい綺麗なお方!」
「あなたは、」とロリー氏は、もう一度しばらくの間ぼんやりした同情と恐縮とを示した後に、言った。「|マネット嬢《ミス・マネット》のお伴をしてフランスへいらっしゃるんでしょうな?」
「いかにもそうありそうなことなのよ!」とその力の強い女が答えた。「でも、もしわたしが海を渡って行くことに前からきまってるんなら、天の神さまがわたしが島国《しまぐに》に生れて来るように骰子《さいころ》をお投げになるとあんたは思いますか?」
 これもまたなかなか返答の
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