もうロンドンをお立ちになってしまっていらっしゃいましたが、でも、そのお方にここであたくしをお待ち下さるようにお願いしますために、その方《かた》の後《あと》から使いの人を出して下すったことと存じます。」
「わたしはそのお役目を任されましたことを嬉しく思っておりました。それを果すことが出来ますればもっと嬉しいことでございましょう。」とロリー氏が言った。
「ほんとに有難うございます。有難くお礼を申し上げます。銀行からのお話では、その方《かた》が用事の詳しいことをあたくしに御説明して下さいますはずで、それがびっくりするような事柄なのだから、その覚悟をしていなければならない、とのことでございました。あたくしはもう十分その覚悟をいたしておりますので、あたくしとしましてはどんなお話なのか知りたくて知りたくてたまらないのでございますが。」
「御もっとも。」とロリー氏は言った。「さよう、――わたしは――」
ちょっと言葉を切ってから、彼はまた例の縮れた亜麻色の仮髪《かつら》を耳のところで抑えつけながら、こう言い足した。――
「どうも言い出すのが大変むずかしいことなのでして。」
彼が言い出さずに、躊躇し
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