《くろんぼ》のキューピッドたちが、死海の果物★を盛った黒い籠を、黒い女性の神々に捧げていたが、――それから彼はマネット嬢に対して彼の正式のお辞儀をした。
「どうぞお掛け遊ばせ。」ごくはっきりした気持のよい若々しい声で。その口調《アクセント》には少し外国|訛《なま》りがあったが、それは全くほんの少しである★。
「わたしはあなたのお手に接吻いたします、お嬢さん。」とロリー氏は、もう一度彼の正式のお辞儀をしながら、昔の作法に従ってこう言い、それから著席した。
「あたくし昨日《きのう》銀行からお手紙を頂きましたのでございますが、それには、何か新しい知らせが――いいえ、発見されましたことが――」
「その言葉は別に重要ではありません、お嬢さん。そのどちらのお言葉でも結構ですよ。」
「――あたくしの一度も逢ったことのない――ずっと以前に亡《な》くなりました父のわずかな財産のことにつきまして、何かわかりましたことがありますそうで――」
 ロリー氏は椅子に掛けたまま身を動かして、例の黒奴《くろんぼ》のキューピッドたちの病院患者行列の方へ心配そうな眼をちらりと向けた。あたかも彼等が[#「彼等が」に傍点]そ
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