ちがここへ参りましたよりも以前のことで、旦那。このジョージ屋はその時分は他《ほか》の人の経営でございました。」
「そうだろうねえ。」
「しかし、旦那、テルソン銀行のようなところになりますと、十五年前はおろか、五十年ばかりも前でも、繁昌していらっしったということには、手前がどっさり賭《かけ》をいたしましてもよろしゅうございましょうね?」
「それを三倍にして、百五十年と言ったっていいかもしれんな。それでも大して間違いじゃないだろうよ。」
「へえ、さようで!」
 口と両の眼とを円くしながら、給仕人《ウェーター》は食卓から一足下ると、ナプキンを右の腕から左の腕へと移して、安楽な姿勢をとった。そして、客の食べたり飲んだりするのを、展望台か望楼からでもするように見下しながら、立っていた。あらゆる時代における給仕人《ウェーター》のかの昔からの慣習に従って。
 ロリー氏は朝食をすましてしまうと、浜辺へ散歩に出かけた。小さな幅の狭い曲りくねったドーヴァーの町は、海の駝鳥のように、浜辺から隠れて、その頭を白堊の断崖の中に突っ込んでいた★。浜辺は山なす波浪と凄じく転げ※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11
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