している杯を再び止《とど》めた。その音は威勢よく近づいて、館の正面までやって来た。
「誰が来たのか尋ねて来い。」
 それは閣下《モンセーニュール》の甥であった。彼は午後早くに閣下《モンセーニュール》の後数リーグばかりのところまで来ていたのであった。彼はその距離を急速に短縮したのだが、しかし途中で閣下《モンセーニュール》に追いつくほどに急速ではなかった。彼は閣下《モンセーニュール》が自分の前に行くということは宿駅で聞いていたのだ。
 ちょうどこちらに晩餐の用意がしてあるから、どうか来て食事していただきたい、と彼に言って来い(閣下《モンセーニュール》がそう言ったのであるが)とのことであった。まもなく彼はやって来た。彼はイギリスでチャールズ・ダーネーとして知られている人物であった★。
 閣下《モンセーニュール》は彼を慇懃な態度で迎えた。が二人は握手をしなかった。
「あなたは昨日《きのう》パリーをお立ちになりましたのですね?」と彼は、食卓に向って著席した時に、閣下《モンセーニュール》に言った。
「昨日《きのう》。で、お前は?」
「私は真直に参りました。」
「ロンドンから?」
「そうです。」

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