。彼がロンドンの私の寓居へ訪ねて来ました時に。約三年か、三年半ばかり前。」
「あなたは彼があの郵船にあなたと同船した乗客に相違ないと認めることや、あるいはあなたの令嬢と彼との会話について話すことが出来ますか?」
「閣下、私にはどちらも出来ません。」
「あなたがそれをどちらも出来ないということには何か特別の理由がありますか?」
 彼は、低い声で、答えた。「あります。」
「あなたは、あなたの生国で、公判も、告発さえも受けずに、永い間の監禁を受けるという不幸な目に遭われたのですか、|マネット医師《ドクター・マネット》?」
 彼は、あらゆる人の心を動かす語調で、答えた。「永い間の監禁でした。」
「あなたは今問題になっている折に釈放されたばかりだったのですか?」
「皆が私にそう申しております。」
「その折の記憶が少しもありませんか?」
「少しも。私が監禁の身で靴造りに従事しておりましたある時――それがいつであるかということさえ私には言えないのでありますが――その時から、ここにおります可愛いい娘と一緒に自分がロンドンに暮しているのだと気がつきました時まで、私の心は白紙なのです。お恵み深い神さまが私
前へ 次へ
全341ページ中167ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ディケンズ チャールズ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング