女たちや子供たちの声――の甲高《かんだか》い響が、この酒飲み競争の続いている間、その街路に鳴り響いていた。この競技には荒っぽいところがほとんどなくて、ふざけたところが多くあった。それには特別な仲のよさが、一人一人が誰か他の者と仲間になりたいという目立った意向があって、そのために、酒に運のよかった連中や気さくな連中の間ではとりわけ、剽軽《ひょうきん》に抱き合ったり、健康を祝して飲んだり、握手をしたり、さては十二人ばかりが一緒になって手を繋ぎ合って舞踏をするまでになったのであった。ところが、葡萄酒がなくなってしまって、それのごくたっぷりあった場所までが指で引掻かれて焼網模様をつけられる頃になると、そういう騒ぎは、始った時と同じように急に、ばったりと止んでしまった。切りかけていた薪に自分の鋸を差したまま放《ほお》って来た男は、またその鋸を挽き出した。熱灰《あつはい》の入っている小さな壺で自分自身か自分の子供かの手足の指の凍痛を和《やわら》げようとしてみていたのを、その壺を戸口段のところに放《ほお》っておいて来た女は、壺のところへ戻った。穴蔵から冬の明るみの中へ出て来た、腕をまくって、髪を縺《もつ》らし、蒼白な顔をした男たちは、立去って再び降りて行った。そして、日光よりももっとこの場にはふさわしく見える陰暗がこの場面に次第に募って来た。
 その葡萄酒は赤葡萄酒であって、それがこぼれたパリーの場末のサン・タントワヌ★の狭い街路の地面を染めたのであった。それはまた多くの手と、多くの顔と、多くの素足と、多くの木靴とを染めた。薪を挽いている男の手は、その薪材に赤い痕を残した。自分の赤ん坊の守《もり》をしている女の額《ひたい》は、自分の頭に再び巻きつけた襤褸布片《ぼろぎれ》の汚染《しみ》で染められた。樽の側板《がわいた》にがつがつしがみついていた連中は、口の周囲に虎のような汚斑をつけていた。そういうのに口を汚《よご》している一人の脊の高い剽軽者が、その男の頭は寝帽《ナイトキャップ》にしている長いきたない袋の中に入っていると言うよりも、それからはみ出ていると言った方がよかったが、泥まみれの酒の渣滓《おり》に浸した指で、壁に、血[#「血」に丸傍点]――となぐり書きした。
 やがて、そういう葡萄酒もまたこの街路の敷石の上にこぼされる時が、またそれの汚染《しみ》がそこにある多くのものを赤く染
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