ゃな!」
「閣下《モンセーニュール》。お慈悲でございます! 御猟場番人の、私の亭主のことで。」
「猟場番人の、お前の亭主がどうしたのじゃ? お前らの言うことはいつもいつも同《おんな》じじゃ。何かが納められないのじゃろう?」
「亭主はすっかり納めました、閣下《モンセーニュール》。亭主は死にました。」
「そうか! では安穏になっておるのじゃ。わしがそれをお前のところへ生き返らせてやれるか?」
「ああ、さようではございません、閣下《モンセーニュール》! しかし亭主は、あそこに、萎《しな》びた草が少しばかりかたまって生えているところの下におります。」
「それで?」
「閣下《モンセーニュール》、そういう萎びた草の少しかたまって生えているところがそれはそれはたくさんございます!」
「それで?」
彼女は年寄の女のように見えたが、ほんとうは若いのであった。彼女の物腰は強い悲歎を抱いているような物腰であった。代る代る、彼女はその筋立った瘤だらけの両手を烈しく力をこめて握り合せたり、片手を馬車の扉《ドア》にかけたりした、――まるでその扉《ドア》が人間の胸であって、訴える手の触るのを感じてくれるもののように、やさしく、撫でさすりながら。
「閣下《モンセーニュール》、お聞き下さいませ! 閣下《モンセーニュール》、私のお願いをお聞き下さいませ! 私の亭主は貧乏のために死にました。たくさんの者が貧乏のために死にます。もっとたくさんの者が貧乏のために死にますでしょう。」
「それで? わしがその者どもを養えるか?」
「閣下《モンセーニュール》、それは有難い神さまだけが御存じでございます。けれども私はそんなことをお頼みするのではございません。私のお願いいたしますのは、私の亭主の名前を書きました小さな石か木片《きぎれ》を一つ、亭主の寝ております場所がわかりますように、その上に置かせていただきたいということでございます。でございませんと、その場所はじきに忘れられてしまいますでしょう。私が同じ病で死にます時にはそこはどうしても見つからないでこざいましょう。私はどこか他《ほか》の萎びた草のかたまって生えているところの下に埋められますでしょう。閣下《モンセーニュール》、死ぬ者はそれはそれはたくさんでございます。死ぬ者はずんずん殖えて参ります。貧乏な者がそれはそれはたくさんでございますから。閣下《モンセーニュ
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