2−12−11]り、呶鳴り、その場で類癇★に罹って――それによって、モンセーニュールを導くための未来へのすこぶるわかりやすい指道標を建てるのであるが――みせたものかどうかと、心の中で考えているところであった。こういう苦行僧の他《ほか》に、別の宗派へ飛び込んで行った他の三人がいた。その宗派というのは、「真理の中心」がどうのこうのという譫語《たわごと》で事態を矯正しようとするものであった。すなわち、人間は真理の中心から離れてしまっている――それは大して論証を必要としない――が、またその円周の外へは出ていない、だから、人間は、断食することと精霊を見ることとによって、その円周の外へ飛び出さぬようにしていなければならぬし、またその中心へ押し戻されさえしなければならぬ、ということを主張したのであった。従って、こういう連中の間では、精霊との談話が大いに行われ、――そして、それには、決して明瞭になっては来なかったたくさんの御利益《ごりやく》があったのである。
しかし、幾分心の慰めにもなろうというのは、モンセーニュールの大邸宅に集ったすべての来客が一点の欠点もない服装をしていることであった。もしも最後の審判日が盛装|日《デー》であるということが確められさえしたならば、そこに集った者は誰も彼も永遠に正しいものとなれたことであろう。あのように縮らして髪粉をつけてぴんと立てた頭髪や、人工的に保持され修飾されているあのように美しい顔色や、あのように見るも華美な佩剣や、嗅覚に対するあのように鋭敏な配慮をもってすれば、確かにどんなものでもいつまでもいつまでも保たせることが出来るであろう。最上等のお仕込を受けた申分のない紳士たちは、彼等がものうげに動くたびにちりんちりんと鳴る小さな垂れ下っている飾物を身に著けていた。こうした黄金の拘束物は貴金属の小さな鈴のように鳴り響いた。そして、それの鳴り響く音や、絹や金襴や上質の亜麻のさらさら擦れる音などのために、そこの空気の中には、サン・タントワヌと彼のがつがつした飢餓とを遠くへ吹き飛ばしてしまうほどの激動があったのだ。
服装こそはあらゆるものをそれぞれの位置に保たしめるに用いられる唯一の間違いのない護符であり呪文であった。各人は決して終ることのない仮装舞踏会のために衣服を著けているのであった。テュイルリーの宮殿★から、モンセーニュールと全宮廷とを経て、
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