の食卓で食事をすることにしていたが、しかしその他の日には、台所か、それとも三階にある自分自身の室――そこは彼女のお嬢さまの他《ほか》にはかつて誰一人も入ることを許されたことのない青い部屋★であったが――かで、人知れぬ時刻に食事することを、どうしてもやめなかった。この日の食事の際には、プロス嬢は、彼女のお嬢さまの楽しい顔と彼女を喜ばそうとする楽しい努力とに応じて、よほど打寛《うちくつろ》いでいた。だから、その食事もまた非常に楽しかった。
その日は蒸暑い日であった。それで、食事がすむと、リューシーは、葡萄酒を篠懸の樹の下に持ち出して、みんなそこへ出て腰掛けることにしましょう、と言い出した。すべてのことが彼女次第であり、彼女を中心にして囘転していたので、皆はその篠懸の樹の下へ出て行った。そして彼女は特にロリー氏のために葡萄酒を持って行った。彼女は、しばらく前から、ロリー氏のお酌取りの役を引受けていたのだ。そして、皆が篠懸の樹の下に腰掛けて話している間も、彼女は彼の杯を始終一杯にしておくようにした。あたりの建物の何となく神秘的に見える裏手や横面がそこで話している彼等を覗いていたし、篠懸の樹は彼等の頭上でその樹のいつものやり方で彼等に向って囁いていた。
それでもまだ、何百の人々は姿を見せなかった。彼等が篠懸の樹の下に腰掛けている間にダーネー氏が姿を見せた。が彼はたった一人であった。
マネット医師は彼を懇ろに迎えた。またリューシーもそうした。しかし、プロス嬢は俄かに頭と体とにひきつりを起して、家の中へひっこんだ。彼女がこの病気に罹ることは珍しくなかった。そして彼女はその病気のことを打解けた会話の時には「痙攣の発作」と言っていた。
医師は体の工合がこの上もなくよくて、特別に若々しく見えた。彼とリューシーとの類似はこういう時には非常に目立った。そして、彼等が並んで腰を掛け、彼女は彼の肩に凭れ、彼は彼女の椅子の背に片腕をかけている時に、その似ているところを見比べてみるのは極めて愉快なことであった。
彼は、いろいろの問題にわたって、非常に決活に、絶えず話していた。「ちょっと伺いますが、|マネット先生《ドクター・マネット》、」とダーネー氏が、彼等が篠懸の樹の下に腰を下した時に、言ったが、――それは、ちょうどその時ロンドンの古い建築物ということが話題になっていたので、自然その話を
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