た。
「あれなら暗がりで手を貸して馬車に乗せてやりがいのある美人だね、ダーネー君!」と彼は、新たな杯に酒を注《つ》ぎ込みながら、言った。
ちょっと眉を顰《ひそ》めて簡単に「そう。」と言うのがその答であった。
「あれなら同情されたり泣いてもらったりされがいのある美人だよ! どんな気持がするかなあ? ああいう美人の同情と憐憫の対象になるのなら、命がけで裁判されるだけの値打があるかね、ダーネー君?」
もう一度ダーネーは一|言《こと》も答えなかった。
「あの女《ひと》は、僕が君の伝言《ことづて》を伝えてやったら、それを聞いてとても喜んでいたよ。いや、なあに、あの女《ひと》が喜んでいる素振りを見せたという訳じゃあないんだがね。喜んでいたろうと僕が推量しているのさ。」
こう言われたことから、ダーネーは、この不愉快な相手が昼間の難関で我から進んで自分を助けてくれたことを、折よく思い出した。それで彼は話をそこへ向けて、彼にその礼を言った。
「僕はどんな礼だって言ってほしくもなければ、言ってもらうだけの資格もないのさ。」というのがその無頓著な応答だった。「第一に、あれは何でもないことだし、第二には、僕はなぜあんなことをしたのか自分でもわからないんだ。ダーネー君、僕は君に一つ尋ねたいことがあるんだがね。」
「どうぞ。あなたの御親切な御尽力に対してわずかな返礼ですが。」
「君は僕が君に特別に好意を持っていると思うかね?」
「全くのところ、カートン君、」と相手は妙に度を失って返答した。「私はそんなことを考えてみたことがないんです。」
「でも今ここで考えてみたまえ。」
「あなたはいかにも私に好意を持っておられるように振舞われました。が、好意を持っておられるとは私は思いません。」
「僕も[#「僕も」に傍点]自分が好意を持っているとは思わないんだ。」とカートンが言った。「僕は君の頭のよさにすこぶる敬服するようになったよ。」
「それにしても、」とダーネーは、呼鈴《ベル》を鳴らしに立ち上りながら、言い続けた。「そのために、私が勘定を持って、私たちがどちら側とも悪感情なしでお別れすることは、差支えがないようにしたいものですね。」
カートンが「そりゃあちっとも差支えはないとも!」と答えたので、ダーネーは呼鈴《ベル》を鳴らした。「君は勘定を全部持つか?」とカートンが言った。肯定の返事をすると、「じ
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