度もないか? そんなことが今の件とどんな関係があるのかわからない。債務者監獄に入ったことは決してないか? ――さあ、もう一度問う。決してないか? ある。何度か? 二三度。五六度ではないか? あるいはそうかもしれない。何の職業か? 紳士だ。人から蹴られたことがあるか? あったかもしれぬ。たびたびあったか? いいや。階段から蹴落されたこと★があるか? 断然ない。一度階段の頂上のところで蹴られて、自分勝手に階段を落ちたことがある。その時は博奕《ばくち》でごまかしをやったために蹴られたのか? そういうような意味のことを、自分にそういう乱暴を加えた酔っ払いの嘘つきが言った。がそれはほんとうではない。それがほんとうではないということを誓うか? きっぱりと。賭博でごまかしをやって生活したことがあるか? 決してない。賭博をやって生活したことがあるか? 他《ほか》の紳士のする程度以上ではない。被告から金を借りたことがあるか? ある。返したことがあるか? ない。被告と親交があると言っても、それは実際のところはごくちょっとした交際で、乗合馬車や宿屋や郵船などの中で被告に無理に押しつけた交際ではないか? いいや。その明細書を被告が持っているのを見たということは間違いないか? 確かだ。その明細書についてはそれ以上のことは知らないのか? 知らない。例えば、君はそれを自分で手に入れたのではなかったか? そうではない。この証言によって何かを得ようと期待しているのではないか? いいや。いつも政府に雇われて金《かね》を貰って、他人を罠に陥れることを仕事にしているのではないか? とんでもないことだ。それとも何かためにしようとしているのではないか? とんでもないことだ。それを誓うか? 幾度でも。全くの愛国心という動機以外には動機はないのか? ちっともない。
 かの謹直な従僕、ロジャー・クライは、非常な速度でさっさと宣誓しては証言して行った。自分は四年前から誠実にかつ純樸に被告に奉公していたのである。カレー通いの郵船の中で、自分は被告に向って小用|足《た》しを雇うつもりはないかと尋ねた。すると被告は自分を雇ったのである。自分はお情に小用足しを使ってくれと頼んだのではない。――そういうことは思いもよらぬことだ。まもなく、自分は被告を怪しいと思うようになり、彼を監視し始めた。旅行中、彼の衣服を整頓する際に、何囘
前へ 次へ
全171ページ中78ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ディケンズ チャールズ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング