興味をどんなに糊塗してみたところで、その興味は、その根底においては、食人鬼のような興味であった。
 法廷内はしいんとする! チャールズ・ダーネーは、彼を告発した(際限のないべちゃくちゃしたおしゃべりをもって)起訴に対して、昨日無罪の申立をしたのであった。その告発というのは、彼はわが畏くも高貴にして顕赫なる云々の君主なるわが国王陛下に対する不忠の叛逆者であって、その理由とするところは、彼は、種々の機会に、種々の手段と方法とをもって、フランス国王リューイスが上述のわが畏くも高貴にして顕赫なる云々の陛下に対してなせる戦争★において、彼リューイスを援助したのである。すなわち、彼は、上述のわが畏くも高貴にして顕赫なる云々の陛下の領土と、上述のフランスのリューイスの領土との間を往復し、上述ののわが畏くも高貴にして顕赫なる云々の陛下が幾何《いくばく》の軍隊をカナダ及び北アメリカに送る準備をしておられるかを、邪悪にも、不忠にも、叛逆的にも、その他種々奸悪にも、上述のフランスのリューイスに密告したのである、ということに対してである。これだけのことは、ジェリーは、いろいろの法律の用語のために髪の毛を逆立てられて頭がますます忍返しのようになりながらも、会得出来て大いに満足した。それで、前述の、幾度も幾度も前述のと言われた、チャールズ・ダーネーなる者が、彼の前で審問を受けようとしているのだということと、陪審官が就任の宣誓をしているのだということと、検事長閣下が弁論にかかろうとしているのだということを、曲りなりにもやっとのことで了解出来たのであった。
 その場にいるすべての人々の心の中で絞首され、斬首されて、四つ裂きにされていた(そして彼自身もそのことは知っていた)被告は、そうした立場にひるみもしなければ、そうした立場にあって少しでも芝居じみた態度を装《よそお》いもしなかった。彼は平静にして傾聴していた。厳粛な関心をもって弁論の開始されるのを注視していた。そして自分の前にある厚板に両手を載せたまま立っていたが、極めて自若としているので、その手は板の上に撒いてある薬草の一葉をも動かしはしなかった。法廷には、獄舎臭と獄舎熱とに対する予防として、一面に薬草を撒き散らし酢を振り撒いてあったのだ。
 囚人の頭の上には鏡があって、彼に光を投げ下すようになっていた。これまでに幾多の悪人や幾多の卑劣漢がその
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