れまで幾度またどんなに胆に徹えるほどこの事を考えて来たか、それはもう云いますまい。私もこの事については考えに考えて来ました。そして、その結果貴方との縁を切って上げることが出来ると云うだけで、もう十分で御座います。」
「私がこれまで一度でも破約を求めたことでもあるのか。」
「口ではね。いいえ、そりゃありませんわ。」
「じゃ、何で求めたのだ?」
「変った性貰で、変った心持で、全然違った生活の雰囲気で、その大きな目的として全然違った希望でです。貴方の眼から見て私の愛情をいくらかでも価値あるもの、値打ちのあるものにしていた一切のものでです。この約束が二人の間にかつてなかったとしたら」と、少女は穏やかに、しかしじっくりと相手を見遣りながら云った、「貴方は今私を探し出して、私の手を求めようとなさいますか。ああ、そんな事はとてもない!」
 彼はこの推測の至当なのに、我にもあらず、屈服するように見えた。が、強いてその感情を抑えながら云った。「お前はそんな風に思っては居ないのだよ。」
「私も出来ることなら、そんな風に考えたくはないんですわ」と、彼女は答えた。「それはもう神様が御存じです! 私がこう云った
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