証拠があると思っているのかね。」
「私には分らないよ」と、スクルージは云った。
「じゃ、何だって自分の感覚を疑うのか。」
「だって」と、スクルージは云った、「些細な事が感覚には影響するものだからね。胃の工合が少し狂っても感覚を詐欺師にしてしまうよ。お前さんは消化し切れなかった牛肉の一片かも知れない。芥子の一点か、乾酪の小片か、生煮えの薯の砕片位のものかも知れないよ。お前さんが何であろうと、お前さんには墓場よりも肉汁の気の方が余計にあるね。」
スクルージはあまり戯談なぞ云う男ではなかった。またこの時は心中決して剽軽な気持になってもいなかった。実を云えば、彼はただ自分の心を紛らしたり、恐怖を鎮めたりする手段として、気の利いた事でも云って見ようとしたのであった。それと云うのも、その幽霊の声が骨の髄まで彼を周章せしめたからであった。
一秒でも黙って、このじっと据わった、どんよりと光のない眼を見詰めて腰掛けていようものなら、それこそ自分の生命に関わりそうに、スクルージは感じた。それに、その幽霊が幽霊自身の地獄の風を身の周りに持っていると云うことも、何か知ら非常に恐ろしい気がした。スクルージは
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