の本体と秘密とは隣室にあるのじゃないか、更に好くその跡を辿って見ると、どうもその光はそこから射して来るようだからと云うことを考え附いた。この考えがすっかり頭の中を占領すると、彼はそっと起き上がって、上靴《すりっぱ》を穿いたまま戸口の方へ足を引き摺りながら歩み寄った。
スクルージの手が錠にかかったその刹那、耳慣れぬ声が彼の名を喚んで、彼に中に這入れと命じた。彼はそれに従った。
それは自分の部屋であった。それに毛頭疑いはない。ところが、それが驚くべき変化を来していた。四方の壁にも天井にも生々した緑葉が垂れ下がって、純然たる森のように見えた。その到るところに、きらきらとした赤い果実《このみ》が露のように燦めいていた。柊《ひいらぎ》や寄生木や蔦のぱりぱりする葉が光を照り返して、さながら無数の小形の鏡が散らかしてあるように見えた。スクルージの時代にも、マアレイの時代にも、また幾十年と云う過ぎ去った冬季の間にも、この化石したような冴えない煖炉がついぞ経験したことのないような、それはそれは盛んな火焔が煙突の中へぼうぼうと音を立てて燃え上っていた。七面鳥、鵞鳥、猟禽、家禽、野猪肉、獣肉の大腿、仔豚、腸詰の長い巻物、刻肉饅頭《ミンスパイ》、|李入り菓子《プラムプッディング》、牡蠣の樽、赤く焼けている胡桃、桜色の頬をしている林檎、露気の多い蜜柑、甘くて頬の落ちそうな梨子、非常に大きなツウェルブズ・ケーク、ポンス酒の泡立っている大盃などが各自の美味《おい》しそうな湯気を部屋中に漲らして、一種の玉座を形造るように、床の上に積み上げられていた。この長椅子の上に、見るも愉快な、陽気な巨人がゆったりと構えて坐っていた。彼はその形において豊饒の角に似ないでもない一本の燃え立つ松明を持っていたが、スクルージが扉の後《うしろ》から覗くようにして這入って来た時、その光を彼に振り掛けようとして、高くそれを差し上げた。
「お這入り!」と、幽霊は叫んだ。「お這入り! そして、もっと好く俺《わし》を御覧よ、おい!」
スクルージはおずおず這入って、この幽霊の前に頭を垂れた。彼は今や以前のような強情なスクルージではなかった。で、精霊の眼は朗らかな親切らしい眼ではあったけれども、彼は眼を上げてその眼にぶつかることを好まなかった。
「俺《わし》は現在の降誕祭《クリスマス》の幽霊じゃ」と、精霊は云った。「俺《わし》
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