男達と子供達の一団が夢中になって手を煖めたり、火焔の前に眼をぱちつかせたりしながらむらがっていた。水道の栓はひとり打遣って置かれたので、その溢れ出る水は急に凍って、厭世的な氷になってしまった。柊の小枝や果実が窓の中の洋灯の熱にパチパチ弾けている店々の明るさは、通りがかりの人々の蒼い顔を真赧にした。家禽屋だの食料品屋だのの商売は素晴らしい戯談になってしまった。すなわち取引とか売買とかいうような面白くもない原則がこれと何かの関係があろうとは、到底信じられないような、華やかな観世物になってしまったのであった。市長閣下は堂々とした官邸の城砦の中で、何十人という料理番と膳部係とに、市長家として恥ずかしくないような、聖降誕祭の用意をするように吩咐けた。また前週の月曜日酒に酔って、血腥い真似をしたと云うかどで市長から五シリングの罰金に処せられた詰らない仕立屋すら、痩せた女房と赤ん坊とが牛肉を買いに駆け出して行った間に、屋根裏の部屋で明日のプディングを掻き廻していた。
いよいよ霧は深く、寒さも加わって来た。突き刺すような、身に徹えるような、噛みつくような寒さであった。聖ダンスタンがいつもの武器を使う代りに、こんなお天気で一と撫でして、悪魔の鼻をちょいと痺れさせてやったら、その時こそ実際悪魔は大声挙げて咆吼したことでもあろう。骨が犬に咬まれるように、飢えた寒さに咬みつかれ、もぐもぐ噛じられた、一つの尖った若い鼻の持ち主がスクルージの鍵の穴から覗き込んで、聖降誕祭の頌歌を彼に振舞おうとした。が、
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神は貴方がたを祝福したまわん、愉快そうな紳士方よ、
貴方がたを狼狽せしむる者は一としてなからん!
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と初めの文句を歌い出した刹那に、スクルージは非常に猛烈な勢いで簿記棒を引掴んだ。それがために歌唄いは仰天して、その鍵の穴を霧と、それよりももっと主人と性の合った霜とに任せて置いたまま遁げ出した。
とうとう事務所の閉じる時刻がやって来た。厭々ながらスクルージはその腰掛から降りて、大桶の中に待ち構えていた書記に、黙ってその事実の承認を与えた。書記は早速蝋燭を消して帽子を被った。
「明日は丸一日欲しいんだろうね?」とスクルージは云った。
「ご都合が宜しければ、貴方。」
「都合は宜しくないさ」と、スクルージは云った。「また公平な事でもないさ。で、そのた
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