何がどうしたと云うんだえ、ええディルバアのお主婦さん?」と、その女は云った。「誰だって自分のためを思ってする権利はあるのさ。あの人[#「あの人」に傍点]なんざ始終そうだったんだよ。」
「そりゃそうだとも、実際!」と、洗濯婆は云った。「何人《だれ》もあの人以上にそうしたものはないよ。」
「じゃ、まあそう可怖《おっかな》そうにきょろきょろ[#「きょろきょろ」に傍点]立っていなくとも好う御座んさあね、お婆さん、誰が知ってるもんですか。それに此方《こちとら》だってお互に何も弱点《あら》の拾いっこをしようと云うんじゃないでしょう、そうじゃないかね。」
「そうじゃないともさ!」と、ディルバーの主婦さんとその男とは一緒に云った。「もちろんそんな積りはないとも。」
「それなら結構だよ」と、その女は呶鳴った。「それでもう沢山なのさ。これ位僅かな物を失くしたとて、誰が困るものかね。まさか死んだ人が困りもしないだろうしねえ。」
「まったくそうだよ」と、ディルバーの主婦さんは笑いながら云った。
「死んでからも、これが身に着けていたかったら、あの因業親爺がさ」と、例の女は言葉を続けた。「生きている時に、何故人間並にしていなかったんだい? 人間並にさえしてりゃ、お前、いくら死病に取り憑かれたからとて、誰かあの人の世話位する者はある筈だよ、ああして一人ぽっちであそこに寝たまま、最後の息を引き取らなくたってねえ。」
「まったくそりゃ本当の話だよ」と、ディルバーの主婦さんは云った。「あの人に罰が当ったんだねえ」
「もう少し酷い罰が当てて貰いたかったねえ」と、例の女は答えた。「なに、もっと他の品に手が着けられたら、大丈夫お前さん、もう少し酷い罰を当てて遣ったんだよ。その包みを解いておくれな、ジョー爺さんや。そして、値段をつけて見ておくれな。なに、明白《はっきり》と云うが可いのさ。私ゃ一番先だって構やしないし、また皆さんに見ていられたって別段|怖《こわ》かないんだよ。私達はここで出会わさない前から、お互様に他人《ひと》の物をくすねていたことは好く承知しているんだからねえ。別段罪にゃならないやね。さあ包みをお開けよ、ジョー。」
 が、二人の仲間にも侠気があって、仲々そうはさせて置かなかった。禿げちょろの黒の服を着けた男が真先駆けに砦の裂目を攀じ登って、自分の分捕品を持ち出した。それは量高《かさだか》の物で
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