蛯、ど、彼が五十九の年で、アイルランドに引退してから十四年目のことでした。
 痛ましいことに、彼はその後、次第に気が狂ってゆきました。一七四五年、七十七歳で、この世を去りました。
 この『ガリバー旅行記』は、これまで広く世界中の人々に親しまれてきた本です。大人にも、子供にも、これくらい、よく読まれてきた本は稀《まれ》です。これからもまだ多くの人々に読まれてゆくことでしょう。


   ガリヴァ旅行記
   ――K・Cに――

 この頃よく雨が降りますが、今日は雨のあがった空にむくむくと雲がただよっています。今日は八月六日、ヒロシマの惨劇から五年目です。僕は部屋にひとり寝転んで、何ももう考えたくないほど、ぼんやりしています。子供のとき、僕は姉からこんな怪談をきかされたのを、おもいだします。ある男が暗い夜道で、怕《こわ》い怕いお化けと出逢う。無我夢中で逃げて行く。それから灯のついた一軒屋に飛込むと、そこには普通の人間がいる。吻《ほっ》と安心して、彼はさきほど出逢ったお化けのことを相手に話しだす。すると、相手は「これはこんな風なお化けだろう」という。見ると、相手はさっきのお化けとそっくりなの
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