、に立っていよ、と仰せられます。それから今度は、将軍(この人は何度も戦場に出たことのある老将軍で、私の恩人でもあります)に命じて、あの股の下を軍隊に行進させてみよ、と仰せになるのでした。
歩兵が二十四列、騎兵が十六列に並び、太鼓を鳴らし、旗をひるがえし、槍を横たえ、歩兵三千、騎兵一千、見事に私の股の下を行進しました。
陛下は各兵士に向って、行進中は私によく礼儀を守ること、背けば死刑にすると申し渡されていました。しかし、それでも若い士官などが、私の股の下を通るとき、ちょっと眼をあげて上を見るのは仕方がありません。私のズボンは、もうひどく綻《ほころ》びていたので、下から見上げると、さぞ、びっくりしたことでしょう。
私は何回となく皇帝に書面を送って、「自由な身にしてください。」とお願いしていましたが、ついに皇帝もこの問題を大臣と相談され、議会の意見もお求めになりました。議会では誰も反対する者はなかったのですが、たゞ一人、スカイリッシュ・ボルゴラムだけが反対しました。ボルゴラムは、何か私を怨《うら》んでいるらしく、どうしても絶対反対だ、と言い張りました。しかし、議会は私を自由にすることに決め、ついに皇帝の許可も出ました。
このボルゴラムという男は、この国の海軍提督で、皇帝からもあつく信任されており、海軍のことにかけては、なか/\専門家なのですが、どうも気むずかし屋で、苦虫をつぶしたような顔をしています。
けれども、とう/\、この人もみんなに説きふせられて、承知しました。それでも、私を自由にするには、私にいろんなことを誓わせなければならないのですが、その条件は俺が書くのだ、と、あくまで押しとおしました。その誓約書を私のところへ持って来たのも、このスカイリッシュ・ボルゴラムでした。二人の次官と数人の名士をつれてやって来ましたが、誓約書を読みあげると、私に、いち/\その実行を誓え、と言います。
まずはじめに私の国のやり方によって誓い、次にこの国のやり方で誓わされたのですが、それは右の足先を左手で持ち、右手の中指を頭の上に、拇指《おやゆび》を右の耳朶《みみたぶ》におくのでした。そのときの誓約書というのは、次のようなものです。
「この宇宙の歓喜恐怖にもあたる、リリパット国大皇帝、ゴルバストー・モマレン・エブレイム・ガーディロウ・シェフィン・ムリ・ギュー皇帝、領土は地球の端から端まで五千ブラストラグにわたり、帝王中の帝王として、人の子より背が高く、足は地軸にとゞき、頭は天を突き、一度首を振れば草木もなびき、その徳は春、夏、秋、冬に通じる。こゝにこの大皇帝は、この頃、わが神聖なる領土に到着した人間山に対し、次の条項を示し、厳粛に誓わせ、その実行を求めるものである。
第一 人間山は朕の許可状なしに、この国土を離れることはできない。
第二 人間山は朕が特に許した場合でなくては、勝手に首都に入ることはできない。首都に入るときは、市民は二時間前に、家の中に引っ込んでいるように注意されることになっている。
第三 人間山の歩いてもいゝ場所は主要国道だけに限られている。牧場や畠地を歩いたり、そこで寝ころんだりすることは許されない。
第四 人間山が主要国道を歩く際には、朕の良民、馬、車などを踏みつけないよう、よく注意すること。また良民の承知なしに矢鱈《やたら》に人をつまみあげて掌に乗せることはできない。
第五 急用の使が要る際には、毎月一回、その伝令と馬を人間山のポケットに入れて運ぶこと。また場合によっては、さらにこれを宮廷に送り返さねばならない。
第六 人間山は朕の同盟者となり、ブレフスキュ島の敵を攻め、朕の国をねらう敵艦隊を打ち滅ぼすことに努力しなければならない。
第七 人間山は閑《ひま》のときには、朕の労役者の手助をして、公園その他帝室用建物の外壁に大きな石を運搬するのを手伝わねばならぬ。
第八 人間山は二ヵ月以内に、海岸を一周して歩き、その距離をはかり、朕の領土の地図を作って出すこと。
第九 これまで述べた条項をよく謹んで守るならば、人間山は毎日、朕の良民千七百二十四人分の食料と飲料を与えられ、自由に朕の近くに侍ることを許され、その他、いろいろ優遇されるであろう。
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ベルファボラック皇宮にて
聖代第九十一月十二日」
[#ここで字下げ終わり]
私は大喜びで満足し、誓いのサインをしました。たゞ、この条項の中には、提督ボルゴラムが悪意で押しつけたものもあり、あまり有り難くないものもありましたが、それはどうも仕方のないことでした。
すぐに私の鎖は解かれました。私は全く自由の身になったのです。この儀式には、皇帝もわざ/\出席されました。私は陛下の足許にひれふして感謝しました。すると皇帝は私に、「立て」と
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